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アスベストの健康被害を徹底解説|肺がん・中皮腫など病気の種類と国の救済制度

  • 執筆者の写真: seira murata
    seira murata
  • 9月19日
  • 読了時間: 13分
アスベスト 健康 被害

過去に建材として広く使われたアスベスト(石綿)による健康被害に、ご自身やご家族が該当しないか不安を感じていませんか。本記事では、アスベストが肺がんや悪性中皮腫などの深刻な病気を引き起こす原因から、具体的な症状、潜伏期間までを徹底解説。さらに、リスクの高い職業、不安な場合の相談先、利用できる労災保険や建設アスベスト給付金といった国の救済制度まで網羅的に紹介し、あなたの疑問と不安を解消します。


1. アスベスト(石綿)とは?なぜ健康被害を引き起こすのか

アスベスト(石綿)とは、天然に存在する極めて細い繊維状の鉱物の総称です。かつては「奇跡の鉱物」とも呼ばれ、その優れた特性から建材や工業製品など、私たちの生活の身近な場所で幅広く使用されてきました。しかし現在では、その繊維を吸い込むことで深刻な健康被害を引き起こすことが明らかになり、原則として製造・使用が禁止されています。


1.1 アスベストの特性と過去の用途

アスベストが多用された理由は、以下のような多くの優れた特性を併せ持っていたためです。


アスベストの主な特性

特性

内容

耐熱性

熱に強く、燃えにくい。

断熱性

熱を伝えにくい性質を持つ。

防音性

音を吸収・遮断する効果がある。

絶縁性

電気を通しにくい。

耐薬品性

酸やアルカリなどの薬品に強い。

耐久性

摩擦や摩耗に強く、丈夫で変化しにくい。

加工性

安価で、他の材料と混ぜやすい。

これらの特性を活かし、1970年代から1990年代にかけて特に多く使用されました。具体的な用途は建材から自動車部品、家庭用品まで多岐にわたります。


アスベストの主な用途例

分類

具体的な製品例

建材

吹付け材、保温・断熱材、スレート屋根材、外壁材、内装材(天井・壁・床)、配管のエルボ部分など

自動車関連

ブレーキパッド、クラッチフェーシング、ガスケット、パッキンなど

工業製品

シール材、パッキン、断熱材、電気絶縁板など

1.2 アスベストが健康に及ぼす危険性

アスベストの危険性は、その繊維が極めて細かく、軽いために空気中に飛散しやすい点にあります。呼吸によって吸い込まれたアスベスト繊維は、体内で分解されることなく肺の奥深くに到達し、異物として長期間体内に留まります。

肺の組織に突き刺さったアスベスト繊維が、長い年月をかけて周辺の細胞を刺激し続けることで、炎症や線維化、さらには細胞のがん化を引き起こすと考えられています。このため、アスベストを吸い込んでから病気を発症するまでには、20年〜50年という非常に長い潜伏期間があるのが特徴です。

世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、アスベストを「グループ1:人に対する発がん性が認められる物質」に分類しており、その危険性は国際的に明確にされています。


2. アスベストが原因で発症する健康被害と病気の種類

アスベスト 健康 被害

アスベスト(石綿)の微細な繊維を吸い込むことで、長い年月を経てから深刻な病気を発症する危険性があります。アスベスト関連疾患の多くは、自覚症状が現れるまでの潜伏期間が20年〜50年と非常に長いことが特徴です。ここでは、アスベストばく露が原因で引き起こされる代表的な健康被害と病気の種類を詳しく解説します。

病名

概要

主な症状

潜伏期間の目安

悪性中皮腫

胸膜や腹膜などに発生する悪性腫瘍

息切れ、胸痛、咳、腹部の張り

20年~50年

肺がん

気管支や肺胞の細胞ががん化したもの

咳、血痰、胸痛、呼吸困難

15年~40年

石綿肺(アスベスト肺)

肺が線維化し硬くなる病気(じん肺の一種)

労作時の息切れ、咳、痰

10年以上

びまん性胸膜肥厚

肺を覆う胸膜が広範囲に厚くなる病気

息切れ、胸痛、呼吸機能の低下

30年~40年

良性石綿胸水

胸膜腔に原因不明の液体がたまる病気

胸痛、呼吸困難、発熱

10年~40年

2.1 悪性中皮腫

悪性中皮腫は、肺を覆う胸膜、腹部を覆う腹膜、心臓を覆う心膜などに発生する悪性の腫瘍です。アスベストばく露との関連性が極めて高い病気として知られており、過去にアスベストを吸い込んだことが主な原因とされています。


2.1.1 悪性中皮腫の症状と潜伏期間

初期症状は現れにくく、胸膜に発生した場合は、息切れ、胸の痛み、咳などが主な症状です。腹膜に発生した場合は、腹部の張り、腹痛、食欲不振などがみられます。潜伏期間は平均して40年前後と非常に長く、症状が現れたときには病状が進行しているケースが少なくありません。


2.2 アスベストによる肺がん

アスベストばく露は、肺がんの発症リスクを高めることが確立されています。アスベストが原因で発生する肺がんは、一般的な肺がんと症状や治療法において区別がつきにくいとされています。


2.2.1 喫煙との関係性と症状

アスベストばく露と喫煙の両方の要因が重なると、肺がんの発症リスクが相乗的に著しく高まることがわかっています。例えば、アスベストにばく露していない非喫煙者のリスクを1とすると、喫煙者は約10倍、アスベストばく露者は約5倍、そしてアスベストばく露のある喫煙者は約50倍にもなると報告されています。主な症状には、長引く咳、血痰、胸の痛み、息切れ、声のかすれなどがあります。


2.3 石綿肺(アスベスト肺)

石綿肺(せきめんはい・いしわたはい)は、アスベスト繊維を長期間・高濃度で吸い込むことによって肺が線維化し、硬くなってしまう病気です。「じん肺」の一種に分類されます。


2.3.1 石綿肺の症状と進行

肺の組織が硬くなることで、肺の弾力性が失われ、呼吸機能が低下します。初期段階では無症状ですが、進行すると体を動かした際の息切れ(労作時呼吸困難)、咳、痰などの症状が現れます。一度線維化した肺組織は元に戻ることはなく、根本的な治療法はありません。病状の進行を遅らせるための対症療法が中心となります。


2.4 びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚は、肺を包む臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)が広範囲にわたって線維化し、厚くなる病気です。胸膜が硬く厚くなることで肺のふくらみが妨げられ、呼吸機能の低下を引き起こします。

主な症状は息切れや胸の痛みで、呼吸困難感を伴うこともあります。アスベストばく露から発症までの潜伏期間は30年〜40年と長い傾向にあります。


2.5 良性石綿胸水

良性石綿胸水は、胸膜と胸壁の間の空間(胸膜腔)に、原因不明の液体(胸水)がたまる病気です。アスベスト関連疾患の中では、比較的短い潜伏期間で発症することがあります。

胸水がたまると肺が圧迫されるため、胸の痛みや呼吸困難、発熱といった症状が現れます。多くの場合、胸水は自然に消えますが、再発を繰り返すこともあります。


3. アスベスト健康被害のリスクが高い職業や環境

アスベスト 健康 被害

アスベスト(石綿)は、かつて多くの建材や工業製品に使用されていたため、特定の職業や環境にいた方は、知らず知らずのうちにアスベスト粉じんにばく露(吸い込むこと)していた可能性があります。ここでは、特に健康被害のリスクが高いとされる職業や環境について具体的に解説します。


3.1 建設業や解体業の従事者

アスベスト健康被害の報告が最も多いのが、建設業や解体業の従事者です。建物の新築、改修、解体といった様々な工程で、アスベスト含有建材の切断、穿孔、除去作業などにより、高濃度のアスベスト粉じんが発生しやすいためです。

直接アスベスト建材を取り扱っていなくても、同じ現場で働くことで粉じんを吸い込む「間接ばく露」のリスクも非常に高いことが指摘されています。


3.1.1 リスクが高いとされる主な職種

職種

主な作業内容

大工

内装工事、天井・壁のアスベスト含有ボードの切断、加工

左官

吹付けアスベストや石綿含有モルタルの吹付け、こて塗り、仕上げ

解体工

アスベスト含有建材(吹付け材、断熱材、スレートなど)の撤去、建物解体

配管工・電気工

天井裏や壁内での配管・配線工事、アスベスト含有保温材・断熱材の加工・撤去

塗装工

吹付けアスベストや石綿含有下地調整材が施工された面への塗装、下地処理

鉄骨工

耐火被覆材として吹付けられたアスベスト周辺での溶接、溶断作業

3.2 工場労働者とその家族

アスベスト製品を製造・加工していた工場の労働者も、高濃度の粉じんにばく露していた可能性が高いです。特に、換気設備が不十分だった時代の工場では、そのリスクは極めて高かったと考えられます。

  • 石綿紡織製品(石綿糸、石綿布など)の製造工場

  • 石綿セメント製品(スレートボード、サイディングなど)の製造工場

  • 自動車のブレーキライニングやクラッチフェーシングの製造・修理工場

  • 造船所(船舶の断熱材、配管の保温材などの取り付け・修理)

  • 化学プラントや製鉄所(断熱材やシール材の保守・点検)


3.2.1 家族への二次ばく露のリスク

工場労働者のリスクは、本人だけに留まりません。作業着に付着したアスベスト粉じんを家庭に持ち帰り、洗濯などで家族がばく露する「家庭内ばく露」によって、労働者の妻や子供が中皮腫などを発症した事例も報告されています。


3.3 古い建物に居住または勤務している方

アスベストが建材として広く使用されていたのは、主に1960年代から1990年代です。そのため、2006年以前に建てられた建物(住宅、学校、オフィスビルなど)では、壁、天井、床、屋根などにアスベスト含有建材が使用されている可能性があります。

通常、建材が損傷なく安定した状態であれば、直ちに健康被害を引き起こすリスクは低いとされています。しかし、建物の老朽化による建材の劣化・損傷や、知識のないまま個人でリフォームや解体を行ったりすると、アスベストが室内に飛散する危険性が高まります。

特に、吹付けアスベストが使用されている天井や壁がある場合、地震や振動で繊維が飛散しやすいため注意が必要です。古い建物にお住まいの方や勤務されている方で、建材の劣化が気になる場合は、専門の業者に調査を依頼することをおすすめします。


4. アスベストの健康被害が心配な場合の相談先と検査

アスベスト 健康 被害

過去にアスベスト(石綿)を吸い込んだ可能性があり、ご自身の健康に不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。咳が続く、息切れがするなどの症状がある場合はもちろん、現在症状がなくても、まずは専門機関に相談することが重要です。ここでは、具体的な相談先と、医療機関で行われる検査について解説します。


4.1 まずはどこに相談すればよいか

アスベストに関する健康の不安は、一人で抱え込まずに専門家へ相談しましょう。相談先は、症状の有無や状況に応じて選ぶことができます。


4.1.1 専門の医療機関

息切れや咳、胸の痛みといった自覚症状がある場合や、健康診断で異常を指摘された場合は、速やかに専門の医療機関を受診してください。アスベストによる健康被害は肺や胸膜に現れることが多いため、呼吸器内科を受診するのが最も適切です。

受診の際には、医師に以下の情報をできるだけ詳しく伝えることが、正確な診断の助けになります。

  • アスベストを扱う作業に従事した職歴(会社名、作業内容、期間など)

  • 自覚している症状(いつから、どのような症状があるか)

  • 喫煙歴の有無

  • 健康診断の結果


4.1.2 地域の相談窓口

どこに相談してよいかわからない場合や、労災認定、救済制度に関する相談をしたい場合は、公的な相談窓口を利用することができます。相談は無料で、秘密は厳守されます。

相談窓口

主な相談内容

都道府県労働局・労働基準監督署

仕事が原因によるアスベスト健康被害(労災保険給付など)に関する相談。

保健所

地域住民のアスベストに関する健康不安についての相談。

労災病院(アスベスト疾患センターなど)

アスベスト関連疾患の専門的な診断や治療、健康相談。専門外来が設置されている場合があります。

独立行政法人 環境再生保全機構

労災保険の対象とならない方(例えば、ばく露した労働者の家族など)や、救済制度(石綿健康被害救済制度)に関する相談。

4.2 アスベスト健康被害の診断に必要な検査

医療機関では、アスベストばく露歴や自覚症状などを詳しく確認する問診に加え、病気の有無や進行度を調べるために以下のような検査が行われます。これらの検査を組み合わせることで、総合的な診断が下されます。

胸部X線(レントゲン)検査

肺がんや石綿肺による肺の線維化、胸膜プラーク(胸膜の肥厚)、胸水の有無などを確認する基本的な画像検査です。

胸部CT検査

X線検査よりも詳細な断層画像を撮影する検査です。初期の悪性中皮腫や肺がん、びまん性胸膜肥厚といった微細な病変を発見するのに非常に有用です。

呼吸機能検査

スパイロメトリーとも呼ばれ、肺活量や息を吐き出す力などを測定します。石綿肺などによって肺の機能がどの程度低下しているかを評価します。

病理検査(細胞診・組織診)

がんが疑われる場合に行われる確定診断のための検査です。気管支鏡を使って気管支内の組織を採取したり、胸に溜まった胸水を採取したりして、がん細胞の有無を顕微鏡で詳しく調べます。


5. アスベスト健康被害に対する国の救済制度

アスベスト 健康 被害

アスベスト(石綿)による健康被害に遭われた方やそのご遺族のために、国は複数の救済制度を設けています。原因や状況によって対象となる制度が異なるため、ご自身の状況に合った制度を確認することが重要です。

ここでは、主要な3つの制度について、それぞれの特徴や対象者を解説します。


5.1 労働者災害補償保険(労災保険)制度

労災保険制度は、仕事(業務)が原因でアスベストにばく露し、中皮腫や肺がんなどの指定疾病にかかった労働者やそのご遺族を対象とする制度です。業務と病気との間に因果関係(業務起因性)が認められる場合に、治療費や休業中の生活費、ご遺族への年金などが補償されます。

申請や相談は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署で行います。会社の退職後でも申請可能で、時効もありますので、早めに相談することが推奨されます。


5.2 石綿健康被害救済制度

この制度は、労災保険の対象とならない方や、労災保険の請求権が時効で消滅してしまった方を救済するためのものです。例えば、自営業者や専業主婦、アスベスト工場の周辺にお住まいだった方などが対象に含まれます。日本国内でアスベストを吸い込み、指定された病気にかかった方が認定を受けると、医療費や療養手当などが支給されます。

申請の窓口は、独立行政法人 環境再生保全機構(ERCA)のほか、市区町村の環境担当課や保健所でも相談を受け付けています。


5.3 建設アスベスト給付金制度

建設アスベスト給付金制度は、建設現場でのアスベストばく露が原因で、中皮腫や肺がんなどの健康被害を受けた建設労働者や一人親方、そのご遺族に対して、国が直接給付金を支払う制度です。これは、国が建設現場におけるアスベスト対策の規制権限を適切に行使しなかったことへの責任を認めた最高裁判決などを背景に創設されました。

給付金の請求は、労働者健康安全機構に対して行います。この制度には請求期限が定められているため、対象となる可能性のある方は速やかに手続きを進める必要があります。



アスベスト健康被害に関する国の主な救済制度

制度名

主な対象者

申請・相談先

労働者災害補償保険(労災保険)制度

業務が原因でアスベストにばく露した労働者・元労働者、その遺族

労働基準監督署

石綿健康被害救済制度

労災保険の対象外の方(自営業者、周辺住民など)や、労災の時効が過ぎた方、その遺族

独立行政法人 環境再生保全機構(ERCA)、市区町村、保健所

建設アスベスト給付金制度

建設業務に従事しアスベストにばく露した労働者・一人親方、その遺族

労働者健康安全機構

6. まとめ

アスベストは、吸い込むと肺がんや悪性中皮腫など、命に関わる深刻な病気を引き起こす極めて危険な物質です。潜伏期間が数十年と非常に長いため、過去にリスクのある環境にいた方は注意が必要です。もし健康に不安を感じた場合は、決して放置せず、専門の医療機関や地域の相談窓口へ速やかに相談しましょう。国は労災保険や石綿健康被害救済制度など、被害者を支えるための制度を設けています。対象となる方は、これらの制度の活用を検討することが重要です。

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