失敗しないアスベスト調査・解体の進め方|依頼から完了までの流れを徹底解説
- seira murata
- 10月1日
- 読了時間: 14分

解体工事を前に、2022年から義務化されたアスベスト調査の進め方や費用に不安を感じていませんか?本記事では、アスベスト調査から解体完了までの全ステップを、初めての方にも分かりやすく徹底解説。調査の流れや費用相場、補助金の活用法、信頼できる業者の選び方まで、必要な情報を網羅しました。この記事を読めば、法令を遵守し、安全かつ適正な価格でアスベスト解体を進めるための知識がすべて手に入ります。
1. なぜ解体工事にアスベスト調査が義務付けられているのか
建物の解体や改修工事を行う際、なぜアスベストの事前調査が法律で厳しく義務付けられているのでしょうか。その最大の理由は、アスベストが引き起こす深刻な健康被害を防ぐためです。アスベストは「静かな時限爆弾」とも呼ばれ、その粉じんを吸い込むことで、肺がんや中皮腫といった、潜伏期間が数十年にも及ぶ重篤な病気を発症する危険性があります。工事作業者だけでなく、飛散したアスベストによって近隣住民の健康まで脅かす可能性があるため、社会全体でその飛散を防止する必要があるのです。このような背景から、法改正によって規制が強化され、現在ではほぼすべての解体・改修工事で事前調査が義務化されています。
1.1 2022年4月から原則必須になったアスベスト事前調査
アスベストに関する規制は年々強化されており、特に2022年4月1日に施行された改正大気汚染防止法は大きな転換点となりました。この法改正により、建築物や工作物の解体・改修工事を行う際には、工事の規模や請負金額に関わらず、原則としてすべてのアスベスト事前調査が義務付けられました。さらに、調査結果の報告も電子システムで行うことが必須となり、規制の実効性が高められています。法改正の主なポイントは以下の通りです。
施行年月 | 主な改正内容 |
2022年4月1日 | 一定規模以上(解体部分の床面積80㎡以上など)の工事について、アスベストの有無に関わらず、事前調査結果の電子報告が義務化。 |
2023年10月1日 | 建築物のアスベスト事前調査は、専門の資格者(建築物石綿含有建材調査者など)が行うことが義務化。 |
これらの規制強化は、アスベストの見落としを防ぎ、より安全に解体・除去作業を進めることを目的としています。「古い建物だから」「小規模なリフォームだから」といった自己判断で調査を省略することは、もはや許されません。
1.2 アスベスト調査を怠った場合の罰則とリスク
もし、法律で定められたアスベストの事前調査を怠ったり、適切な届出をせず工事を行ったりした場合、事業者は厳しい罰則の対象となります。これは、大気汚染防止法および労働安全衛生法(石綿障害予防規則)によって定められています。罰則は単なる罰金だけでなく、懲役刑が科される可能性もある非常に重いものです。
法律 | 違反行為の例 | 罰則 |
大気汚染防止法 | 事前調査の未実施・虚偽報告、届出義務違反、作業基準の不遵守など | 3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金など |
労働安全衛生法 (石綿障害予防規則) | 事前調査の未実施、作業計画の未作成、ばく露防止措置の不履行など | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金など |
法的な罰則以上に深刻なのが、それに伴う二次的なリスクです。アスベストを飛散させてしまった場合、作業員や近隣住民への健康被害に対する損害賠償請求に発展する可能性があります。さらに、法令違反が発覚すれば企業の社会的信用は失墜し、事業の継続そのものが困難になるケースも少なくありません。アスベスト調査を適切に行うことは、法律を守るだけでなく、人々の命と会社の未来を守るための最低限の責務なのです。
2. アスベスト調査から解体完了までの全ステップを解説

解体工事を検討し始めてから、アスベスト調査、除去、解体、そして完了報告までの一連の流れは、法律で厳格に定められています。安全かつ確実に工事を進めるためには、各ステップで何を行うべきかを正確に理解しておくことが不可欠です。ここでは、依頼から工事完了までの全7ステップを、順を追って詳しく解説します。
2.1 ステップ1 相談とアスベスト調査・解体業者の選定
アスベスト調査・解体工事の第一歩は、専門業者への相談から始まります。解体したい建物の図面(設計図書など)を用意し、信頼できる業者に連絡を取りましょう。アスベスト調査と解体工事は、それぞれ専門的な知識と資格が不可欠なため、両方に対応できる実績豊富な業者を選ぶことが重要です。複数の業者から見積もりを取り、対応の丁寧さや説明の分かりやすさを比較検討することをおすすめします。
2.2 ステップ2 アスベストの事前調査(一次・二次スクリーニング)
2022年4月以降、建物の解体・改修工事を行う際には、規模の大小にかかわらず原則として有資格者によるアスベストの事前調査が義務付けられています。調査は大きく分けて「書面・目視調査」と「分析調査」の2段階で行われます。
2.2.1 書面調査と現地での目視調査
まず、設計図書や過去の施工記録などの書類を確認し、アスベスト含有建材が使用されている可能性を洗い出します(書面調査)。その後、資格者(建築物石綿含有建材調査者など)が現地に赴き、建物の隅々まで直接目で見て、アスベスト含有が疑われる建材の有無を確認します(目視調査)。この書面と目視による調査でアスベスト含有建材がないと判断されれば、分析調査は不要となります。
2.2.2 分析調査(検体採取)が必要なケース
書面調査や目視調査だけではアスベスト含有の有無が判断できない建材が見つかった場合、分析調査へと進みます。現場で疑わしい建材の一部を慎重に採取(サンプリング)し、専門の分析機関に送付。JIS A 1481規格群などの公定法に基づき、アスベストが含まれているかどうか、またその種類を特定します。アスベスト含有建材とみなして除去作業を行う「みなし措置」も可能ですが、コスト面から分析調査で明確に判断するケースが一般的です。
2.3 ステップ3 調査結果の報告と計画策定
事前調査が完了すると、その結果をまとめた「アスベスト事前調査結果報告書」が作成されます。この報告書には、アスベスト含有建材の有無、含有箇所、建材の種類、アスベストのレベル分類(レベル1〜3)などが詳細に記載されます。発注者はこの報告書の内容を業者から受け、十分に理解する必要があります。調査結果に基づき、アスベストの飛散防止対策や除去方法、作業手順などを盛り込んだ具体的な除去・解体工事の計画(作業計画)が策定されます。
2.4 ステップ4 行政への各種届出の提出
アスベスト調査の結果や工事計画が固まったら、着工前に管轄の労働基準監督署や都道府県などの行政機関へ必要な届出を提出しなければなりません。届出の種類は、アスベストの有無やレベル、建物の規模によって異なります。これらの届出は法律で義務付けられており、提出を怠ると罰則が科されるため、必ず期限内に手続きを完了させる必要があります。
主な届出の種類と概要 | |||
届出の種類 | 根拠法 | 届出先 | 届出期限 |
石綿事前調査結果報告 | 石綿障害予防規則 | 労働基準監督署(電子システム) | 工事開始前まで |
特定粉じん排出等作業実施届出書 | 大気汚染防止法 | 都道府県・市区町村 | 作業開始の14日前まで |
建設工事計画届 | 労働安全衛生法 | 労働基準監督署 | 工事開始の14日前まで |
建築物解体等作業届 | 石綿障害予防規則 | 労働基準監督署 | 作業開始前まで |
※上記は一例です。工事内容によって必要な届出は異なります。
2.5 ステップ5 アスベスト除去・解体工事の実施
行政への届出が完了し、受理されたら、いよいよ工事開始です。工事は事前に策定した作業計画に沿って、安全第一で進められます。アスベストの除去作業は、その発じん性(飛散のしやすさ)に応じた「レベル」ごとに、厳格な基準に則って行われます。
レベル1(発じん性が著しく高い): 吹付け石綿など。作業場所を隔離シートで完全に密閉し、負圧除じん機で内部の気圧を下げてアスベストの外部漏洩を防ぐなど、最も厳重な措置が取られます。
レベル2(発じん性が高い): 石綿含有保温材など。レベル1に準じた隔離措置が必要となります。
レベル3(発じん性が比較的低い): 石綿含有成形板など。原則として隔離は不要ですが、建材を湿潤化させたり、破断させないように手作業で丁寧に撤去したりと、粉じんの飛散を抑制する対策が必須です。
作業員は専用の保護衣や防じんマスクを着用し、周辺住民の安全と環境への配慮を徹底しながら、慎重に作業を進めます。アスベスト除去完了後、建物の解体工事へと移行します。
2.6 ステップ6 産業廃棄物の適正な処理
除去されたアスベスト含有建材は、法律に基づき適正に処理しなければなりません。これらは「廃石綿等(特別管理産業廃棄物)」または「石綿含有産業廃棄物」として分類され、通常の建設廃棄物とは異なる厳格な処理ルートを辿ります。運搬から中間処理、最終処分に至るまで、許可を得た専門の処理業者によって行われ、その全工程はマニフェスト(産業廃棄物管理票)によって追跡・管理されます。不法投棄は極めて重い罰則の対象となるため、信頼できる業者に依頼することが絶対条件です。
2.7 ステップ7 工事完了と実績の記録・保存
全てのアスベスト除去・解体工事が完了したら、作業内容を発注者に報告します。この際、事前調査の結果、作業中の写真、各種届出の控え、マニフェストの写しといった一連の書類がまとめられます。石綿障害予防規則により、事業者はこれらの作業記録を3年間保存する義務があります。発注者としても、工事が適正に行われたことを証明する重要な書類として、これらの記録を大切に保管しておくべきです。これにより、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。
3. アスベスト調査と解体工事にかかる費用相場

アスベスト調査から解体工事までには、専門的な作業が必要となるため、相応の費用が発生します。しかし、費用の内訳や相場を事前に把握しておくことで、適切な予算計画を立て、信頼できる業者に適正価格で依頼することが可能になります。ここでは、調査と除去・解体にかかる費用の目安、そして負担を軽減するために活用できる補助金制度について解説します。
3.1 アスベスト調査費用の内訳と目安
アスベストの事前調査費用は、調査方法によって大きく異なります。調査は主に、設計図書等で確認する「書面調査」、現地で目視確認する「現地調査」、そして建材を採取して分析する「分析調査」の3段階で行われます。
書面調査と現地調査でアスベスト含有の可能性がないと判断されれば、分析調査は不要となり、費用を抑えることができます。一方、分析が必要な場合は、検体の数に応じて費用が加算されます。
調査の種類 | 費用相場 | 備考 |
書面調査・現地調査(一次スクリーニング) | 30,000円~100,000円程度 | 建物の規模や構造、図面の有無によって変動します。 |
分析調査(二次スクリーニング) | 1検体あたり 30,000円~50,000円程度 | 分析する建材の種類や数によって総額が変わります。複数検体を同時に依頼すると割引が適用される場合もあります。 |
3.2 アスベスト除去・解体費用の目安
アスベスト除去・解体工事の費用は、アスベストの飛散性の高さを示す「レベル」によって大きく変動します。レベル1が最も危険性が高く、厳重な管理下での作業が求められるため、費用も高額になります。
以下の表は、レベルごとの除去費用の目安です。ただし、これはあくまで単価の目安であり、実際の費用は作業場所の広さや高さ、必要な養生の規模、周辺環境などによって大きく変動します。
アスベストレベル | 主な建材例 | 除去費用の目安(m²単価) |
レベル1(発じん性が著しく高い) | 石綿含有吹付け材 | 20,000円~85,000円/m² |
レベル2(発じん性が高い) | 石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材 | 10,000円~60,000円/m² |
レベル3(発じん性が比較的低い) | スレート波板、サイディング、Pタイルなどの成形板 | 3,000円~20,000円/m² |
この除去費用に加えて、通常の解体工事費用や、除去したアスベスト建材を適正に処理するための産業廃棄物処理費用が別途必要となります。
3.3 活用できる補助金・助成金制度について
アスベストの調査や除去工事には、費用負担を軽減するための補助金・助成金制度が国や地方自治体によって設けられています。これらの制度をうまく活用することで、自己負担額を大幅に抑えられる可能性があります。
制度の多くは、個人が所有する戸建て住宅や小規模な建築物を対象としており、調査費用や除去費用の一部が補助されます。補助額や対象条件は自治体によって異なりますが、費用の2分の1から3分の2程度を上限額の範囲内で補助するケースが一般的です。
補助金制度を利用するためには、工事の契約前に申請手続きを完了させる必要があるため、計画段階での情報収集が非常に重要です。
まずは、解体したい建物が所在する市区町村のウェブサイトを確認するか、建築指導課や環境保全課といった担当部署に直接問い合わせてみましょう。多くの自治体では、制度の概要や申請方法について詳しく案内しています。ただし、年度ごとに予算が定められており、申請期間が限られている場合が多いため、早めの確認をおすすめします。
4. 失敗しないアスベスト調査・解体業者の選び方3つのポイント

アスベストの調査から解体までの一連の作業は、専門的な知識と技術が求められるだけでなく、関連法規の遵守が不可欠です。不適切な業者に依頼してしまうと、健康被害のリスクや法的な罰則、追加費用の発生といったトラブルに繋がりかねません。ここでは、安心して任せられる優良な業者を見極めるための3つの重要なポイントを解説します。
4.1 ポイント1 必要な資格や許認可を保有しているか
アスベスト関連の工事を行うには、国が定めた専門的な資格や行政からの許認可が必要です。これらは、業者が法令を遵守し、安全に作業を行うための知識と技術を持っていることの証明となります。信頼できる業者を選ぶ最初のステップは、公的な資格や許認可の有無をウェブサイトや提出書類で必ず確認することです。
依頼を検討する際には、少なくとも以下の資格・許認可を保有しているかを確認しましょう。
関連作業 | 必要な資格・許認可の例 | 概要 |
アスベストの事前調査 | 建築物石綿含有建材調査者 | 建築物のアスベスト含有の有無を調査するために必須の専門資格です。 |
アスベストの除去工事 | 石綿作業主任者 | アスベスト除去作業の現場で、作業員の安全管理や作業方法の指揮監督を行うための国家資格です。 |
建物の解体工事 | 解体工事業登録 / 建設業許可 | 解体工事を請け負うために必要な行政への登録または許可です。 |
アスベスト含有廃棄物の運搬 | 産業廃棄物収集運搬業許可(特別管理産業廃棄物) | アスベストを含む廃棄物を適正に処理施設まで運搬するために必要な許可です。 |
4.2 ポイント2 実績が豊富で評判が良いか
資格や許認可の保有は最低条件ですが、それだけでは十分ではありません。アスベストの除去や解体工事は、建物の構造や建材の種類、周辺環境によって対応が大きく異なります。そのため、自社の建物と類似したケースの施工実績が豊富な業者を選ぶことが、工事の質と安全性を確保する上で非常に重要です。
業者の実績や評判を確認するためには、以下の方法が有効です。
公式ウェブサイトの施工事例を確認する:戸建て住宅、マンション、工場など、どのような建物の実績が多いかを確認します。写真付きで詳細な事例が掲載されていれば、信頼性が高いと判断できます。
直接問い合わせて実績を聞く:見積もり依頼の際に、類似の建物の解体実績や、アスベスト除去の経験について具体的に質問してみましょう。明確で説得力のある回答が得られるかどうかが判断材料になります。
口コミや第三者の評価を参考にする:インターネット上の口コミサイトやレビューも参考になりますが、情報の正確性には注意が必要です。複数の情報源を比較し、総合的に判断することが大切です。
4.3 ポイント3 見積もりの内容が明確で分かりやすいか
費用に関するトラブルを避けるためには、見積書の内容を慎重に確認することが不可欠です。単に総額が安いという理由だけで業者を選ぶのは危険です。内訳が不明瞭な「一式」表記が多い見積書は、後から追加費用を請求されるリスクがあります。複数の業者から相見積もりを取り、各項目の内容を詳細に比較検討することが、適正価格で質の高い工事を実現するための鍵となります。
信頼できる業者の見積書には、以下のような特徴があります。
作業項目ごとの内訳が詳細に記載されている:アスベストの事前調査費用、除去作業費用(レベル1〜3の別)、養生費用、解体工事費用、廃棄物処理費用などが明確に区分され、それぞれの単価や数量が明記されています。
追加費用が発生する可能性について言及がある:工事中に予期せぬアスベストが発見された場合など、追加費用が発生する可能性のあるケースとその際の対応について、事前に説明があります。
担当者の説明が丁寧で分かりやすい:見積もりの内容について質問した際に、専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧に説明してくれるかどうかも重要な判断基準です。
5. まとめ
2022年4月の法改正により、建物の解体・改修工事におけるアスベストの事前調査は原則義務化されました。調査を怠ると罰則が科されるだけでなく、健康被害のリスクも伴うため、法令遵守は必須です。調査から除去、廃棄物処理までの一連の流れを正しく理解し、信頼できる専門業者を選ぶことが成功の鍵となります。業者選定の際は、資格や実績、見積もりの明確さを必ず確認し、自治体の補助金制度も活用して費用負担を軽減しましょう。
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