知らないと罰則も!アスベスト調査の義務について対象者と報告制度を解説
- seira murata
- 7月26日
- 読了時間: 20分

建物の解体や改修工事では、2022年4月からアスベストの事前調査が義務化されました。この記事を読めば、労働者や住民の健康を守るための法改正で、誰がどのような工事で調査義務を負うのかが分かります。具体的な調査方法からGビズでの報告、費用相場、違反時の罰則まで、発注者と事業者が知るべき全知識を網羅的に解説します。
1. アスベスト調査の義務化とは 2022年4月からの法改正を解説
建物の解体やリフォームなどの改修工事を行う際、アスベスト(石綿)の有無を事前に調査することが、法律で義務付けられています。これは、2022年4月1日に施行された改正「石綿障害予防規則(石綿則)」によるもので、労働者や周辺住民の健康被害を未然に防ぐことを目的としています。これまで一定規模以上の工事に限定されていた調査義務が、原則としてすべての解体・改修工事に拡大され、事業者の責任がより一層重くなりました。
1.1 なぜアスベスト調査が義務になったのか
アスベストは、かつて耐火性や断熱性に優れた建材として広く使用されていましたが、その粉じんを吸い込むと肺がんや悪性中皮腫といった深刻な健康被害を引き起こすことが判明しています。「静かな時限爆弾」とも呼ばれ、吸引してから数十年後に発症するケースも少なくありません。
法改正以前は、調査義務の対象外となる小規模な工事が多く、知らず知らずのうちにアスベストを飛散させてしまう「見逃し」が社会問題となっていました。このような背景から、アスベスト含有建材の取り残しをなくし、作業員や近隣に住む人々の安全と健康を確実に守るため、規制が大幅に強化され、事前調査が全面的に義務化されたのです。
1.2 法改正で何が変わった?アスベスト関連法令のポイント
アスベストに関する規制は、「石綿障害予防規則」と「大気汚染防止法」の改正により、段階的に強化されてきました。特に重要な変更点を時系列でまとめます。
施行日 | 主な改正内容 |
2021年4月1日 |
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2022年4月1日 |
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2023年10月1日 |
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このように、法改正によって調査から報告、作業に至るまでの一連のプロセスが厳格化されました。特に、2023年10月からは専門の資格者による調査が必須となっており、専門知識に基づいた正確な判断が求められています。
2. アスベスト調査義務の対象となる工事と建築物

2022年4月から施行された改正大気汚染防止法により、アスベストの事前調査が義務化されました。では、具体的にどのような工事や建物がその対象となるのでしょうか。ここでは、調査義務の対象範囲と、責任の所在について詳しく解説します。
2.1 調査義務が発生する解体・改修工事の規模
アスベストの事前調査は、建築物や工作物の解体・改修工事を行う場合、その規模の大小や請負金額に関わらず、原則としてすべての工事が対象となります。
過去には一定規模以上の工事のみが対象でしたが、法改正によってその規定は撤廃されました。たとえ「壁紙を張り替えるだけ」「小さな設備の補修」といった小規模なリフォームであっても、アスベスト含有建材を損傷させる可能性がある限り、事前調査の義務が発生します。工事の発注者も請負業者も、「これくらいの工事なら不要だろう」と自己判断することはできません。
解体工事:建築物や工作物をすべて取り壊す工事
改修工事:建築物や工作物の一部を補修、改造、リフォームする工事(塗装の塗り替えにおける下地調整、内装リフォーム、設備の取り付け・撤去などを含む)
このように、金額や面積による足切りは一切なく、あらゆる解体・改修作業が対象であると認識することが重要です。
2.2 対象となる建築物や工作物の具体例
事前調査の対象は、私たちが普段目にする「建物」だけではありません。法律では「建築物」と「工作物」に分けて定義されており、非常に広範囲にわたります。
具体的にどのようなものが対象になるのか、以下の表で確認しましょう。
分類 | 具体例 |
建築物 | 戸建て住宅、アパート・マンション、オフィスビル、店舗、工場、倉庫、学校、病院など、屋根および柱または壁を有するすべての構造物 |
工作物 | プラントや工場の配管・ボイラー、煙突、トンネル、橋梁、受変電設備(キュービクル)、ガスタンク、エレベーター、広告塔、遮音壁など |
特に見落としがちなのが「工作物」です。建築物に付属する電気設備や空調設備、さらには独立した煙突やプラント設備なども調査対象に含まれます。所有する資産や管理する物件にこれらの設備がないか、改めて確認することが求められます。
2.3 アスベスト調査義務は誰にある?発注者と元請業者の責任
アスベストの事前調査を実施する直接的な義務を負うのは、工事を請け負う「元請業者」です。元請業者は、調査結果を発注者に書面で説明し、その記録を作成・保存する義務も負います。
しかし、工事を依頼する「発注者」も無関係ではありません。発注者には以下の役割と責任(配慮義務)があります。
調査費用の負担:元請業者が適切な調査を実施できるよう、必要な費用を請負代金に含めるなど、適正に配慮する義務があります。
調査への協力:設計図書や過去の修繕履歴など、元請業者が調査を行う上で必要な情報を提供するなど、調査に協力する義務があります。
発注者が調査費用を不当に値引いたり、必要な情報提供を怠ったりすると、元請業者は適正な調査ができず、結果として法令違反につながる恐れがあります。安全な工事と法令遵守のためには、発注者と元請業者が密に連携し、それぞれの責任を果たすことが不可欠です。
3. アスベスト事前調査の具体的な方法と流れ

アスベストの事前調査は、法令で定められた手順に沿って正確に行う必要があります。調査は大きく分けて「書面調査」「目視調査」「分析調査」の3つのステップで構成されており、原則としてこれらの手順を省略することはできません。ここでは、それぞれのステップの具体的な内容と流れを解説します。
3.1 ステップ1 書面調査による設計図書等の確認
事前調査の第一歩は、設計図書や施工記録などの書類を確認し、アスベスト含有建材の使用状況を把握する書面調査です。工事の対象となる建築物が建てられた時期や、使用されている建材の種類を書類上で確認します。
2006年(平成18年)9月1日以降に着工された建築物については、アスベスト含有建材の使用が全面的に禁止されているため、設計図書等で着工年月日が確認できれば、書面調査のみでアスベスト含有のおそれがないと判断できます。しかし、それ以前に建てられた建築物については、アスベストが使用されている可能性を前提に調査を進める必要があります。
書面調査で確認する主な書類の例 | |
書類の種類 | 確認する内容 |
設計図書(意匠図、仕様書など) | 建材の名称、品番、製造年月日など |
施工記録・工事記録 | 実際に使用された建材や施工方法の記録 |
維持管理・メンテナンス記録 | 過去の修繕や改修工事の履歴、使用された材料の記録 |
過去のアスベスト調査記録 | 以前に実施されたアスベスト調査の結果報告書 |
これらの書類からアスベスト含有建材の使用が明らかになった場合、または書類が存在せず不明な場合は、次のステップである目視調査に進みます。
3.2 ステップ2 目視による現地調査
書面調査で得た情報を基に、実際に現地へ赴き、有資格者の目で建材の状態を確認するのが目視調査です。書面だけではわからない建材の劣化状況や、図面に記載されていない建材の有無などを確認するために不可欠な工程です。
調査員は、壁、天井、床、屋根、配管の保温材など、アスベストが使用されている可能性のある箇所をくまなくチェックします。建材の種類や製造年代からアスベスト含有の可能性を判断し、損傷や劣化の度合いも記録します。この段階でアスベスト含有建材ではないと識別できたもの以外は、すべて「含有のおそれあり」として扱われます。
目視調査の結果、アスベスト含有が明らかで、かつ建材の種類も特定できた場合は、分析調査を省略して「みなし含有」として扱うことも可能です。これにより、分析調査の費用と時間を節約できますが、本来はアスベストが含まれていない建材まで除去対象となる可能性があります。
3.3 ステップ3 分析調査によるアスベスト含有の有無の確定
書面調査および目視調査でアスベスト含有の有無が明確に判断できなかった建材については、試料(サンプル)を採取し、専門の分析機関で分析を行うことで含有の有無を確定させます。これが最終ステップとなる分析調査です。
試料の採取は、建材を削り取るなどして行うため、アスベストが飛散するリスクを伴います。そのため、湿潤化させるなど適切な飛散防止措置を講じた上で、専門知識を持つ調査者が慎重に行わなければなりません。
採取された試料は、厚生労働省が定める分析方法(JIS A 1481シリーズ)に基づき、分析機関で顕微鏡を用いた定性分析が行われます。この分析により、アスベストの含有率が0.1重量%を超えているかどうかが科学的に証明され、その後の除去工事などの対応方針が最終的に決定されます。
4. アスベスト調査の実施に必要な資格者

アスベストの事前調査は、誰でも実施できるわけではありません。2023年10月1日からは、法改正により、建築物の解体・改修工事における事前調査を、専門的な知識を有する資格者が行うことが義務付けられました。これは、アスベストの見落としを防ぎ、作業員や周辺住民の安全を確保するための重要な措置です。
4.1 建築物石綿含有建材調査者(アスベスト診断士)とは
アスベスト調査を行うために必要な公的資格が「建築物石綿含有建材調査者」です。一般的に「アスベスト診断士」という通称で呼ばれることもあります。この資格は、講習を受講し、修了考査に合格することで取得できます。資格は調査対象となる建築物の種類によって、以下の3つに区分されています。
資格の種類 | 調査できる建築物・工作物の範囲 |
特定建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物・工作物(最も上位の資格) |
一般建築物石綿含有建材調査者 | 住宅、店舗、事務所など、特定の複雑な構造を持つ建築物を除く一般的な建築物 |
一戸建て等石綿含有建材調査者 | 一戸建て住宅および共同住宅の住戸内部(共有部分は除く) |
解体・改修工事を行う際は、対象となる建築物の規模や種類に応じて、適切な資格を持つ調査者に依頼する必要があります。
4.2 資格者による調査が必須な理由
資格者による調査が法律で義務付けられたのには、明確な理由があります。アスベスト含有建材は非常に種類が多く、見た目だけでは識別が困難なものが多数存在します。専門的な知識がなければ、アスベスト含有の可能性を見落としてしまうリスクが非常に高いのです。
資格者は、建材の種類や製造年代、使用されている箇所といった専門知識に基づき、的確な調査を実施します。資格者による調査は、アスベストの有無を正確に判断し、その後の適切な措置につなげることで、作業員や近隣住民の健康被害を未然に防ぐために不可欠なのです。
万が一、資格のない者が調査を行ったり、調査自体を怠ったりした場合は、法律違反となり厳しい罰則の対象となります。安全確保と法令遵守の両面から、必ず正規の資格者に事前調査を依頼してください。
5. アスベスト事前調査結果の報告義務と電子申請システム

2022年4月1日の法改正により、アスベストの事前調査結果を労働基準監督署および地方公共団体へ報告することが義務化されました。この報告は、作業員の健康と周辺環境への安全を確保するための重要な手続きであり、原則として電子申請システムを利用して行う必要があります。
アスベスト含有の有無にかかわらず、一定規模以上の工事では報告が必須となるため、発注者・元請業者は制度を正しく理解しておくことが不可欠です。
5.1 報告が義務となる工事の条件
アスベストの事前調査結果の報告は、すべての解体・改修工事で必要となるわけではありません。以下の条件に該当する場合に報告義務が発生します。アスベスト含有建材が「なし」と判断された場合でも、下記の条件に当てはまる工事であれば報告は必要ですので注意が必要です。
報告義務対象工事の概要 | |
工事の種類 | 報告が必要となる条件 |
建築物の解体工事 | 解体する部分の床面積の合計が80平方メートル以上 |
建築物の改修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
※工作物の例:反応塔、貯蔵槽、発電設備、変電設備、煙突など
5.2 石綿事前調査結果報告システム(Gビズ)での報告方法
事前調査結果の報告は、厚生労働省が管轄する「石綿事前調査結果報告システム」から電子申請で行うのが基本です。このシステムを利用することで、労働基準監督署と地方公共団体への報告を一度で完結させることができます。
報告の主な流れは以下の通りです。
GビズIDの取得
報告システムの利用には、法人・個人事業主向けの認証システムである「GビズID」のアカウントが必要です。「gBizIDプライム」または「gBizIDメンバー」のアカウントを取得します。
報告システムへのログイン
取得したGビズIDを使って「石綿事前調査結果報告システム」にログインします。
必要事項の入力
画面の指示に従い、工事の基本情報(元請業者、工事場所、工期など)や事前調査の結果(調査方法、アスベスト含有の有無、建材の種類など)を入力します。
報告の提出
入力内容に誤りがないかを確認し、報告を提出します。報告内容はシステム上で3年間保存されます。
システムの操作で不明な点がある場合は、公式サイトのヘルプデスクやマニュアルを参照してください。
5.3 報告の期限と注意点
事前調査結果の報告には期限が定められており、違反すると罰則の対象となる可能性があります。以下の点を確実に押さえておきましょう。
報告の期限
報告は、解体・改修工事を開始する前までに完了させる必要があります。ここでの「工事の開始」とは、足場の設置といった準備作業も含まれるため、余裕を持ったスケジュールで手続きを進めることが重要です。
報告義務者
報告の義務は、工事の元請業者にあります。発注者から直接工事を請け負った事業者が責任を持って報告を行わなければなりません。
アスベスト「なし」でも報告は必須
前述の通り、対象規模の工事であれば、調査の結果アスベストが検出されなかった場合でも報告義務は免除されません。
書面での保存
電子報告とは別に、事前調査の記録は書面で作成し、工事終了後も3年間保存する義務があります。
6. 知らないと重い罰則も アスベスト調査義務違反のリスク

2022年4月から段階的に施行された法改正により、アスベスト調査の義務化とそれに伴う罰則が大幅に強化されました。これまで「知らなかった」では済まされない厳しい内容となっており、発注者・元請業者の双方が責任を問われる可能性があります。ここでは、義務違反によって科される具体的な罰則の内容とリスクについて詳しく解説します。
6.1 事前調査義務に違反した場合の罰則規定
解体・改修工事を行う際、最も基本的かつ重要な義務が「事前調査の実施」です。この義務を怠った場合、労働安全衛生法(安衛法)に基づき罰則が科されます。
具体的には、資格者による事前調査を実施しなかった場合、労働安全衛生法第100条(報告等)および石綿障害予防規則(石綿則)第3条(事前調査)の義務違反として、同法第119条に基づき「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。これは、調査を全く行わなかったケースだけでなく、無資格者が調査を行った場合も対象となるため、必ず有資格者に依頼しなければなりません。
6.2 調査結果の報告義務に違反した場合の罰則規定
一定規模以上の工事では、事前調査の結果を労働基準監督署および地方公共団体へ電子システム(Gビズ)を通じて報告する義務があります。この報告義務に違反した場合は、大気汚染防止法(大防法)に基づく罰則の対象となります。
事前調査結果の報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合、大気汚染防止法第18条の17(事前調査結果の報告)の義務違反として、同法第35条に基づき「30万円以下の罰金」が科せられます。調査を適切に実施していても、報告を忘れるだけで罰則の対象となるため、工事規模を正確に把握し、期限内に必ず報告を完了させることが重要です。
6.3 作業基準の遵守義務違反などその他の罰則
アスベスト関連の義務は、事前調査や報告だけではありません。調査でアスベストが見つかった後の措置や、作業記録の保存など、多岐にわたる義務が定められており、それぞれに罰則が設けられています。代表的な違反と罰則を以下にまとめます。
違反内容 | 根拠法令 | 罰則 |
除去作業時の隔離措置や飛散防止対策の未実施 | 労働安全衛生法 / 石綿障害予防規則 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
特定建築材料の除去等作業計画の届出義務違反 | 労働安全衛生法 | 50万円以下の罰金 |
作業基準の不遵守(湿潤化の徹底など) | 大気汚染防止法 | 3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
作業記録の作成・3年間の保存義務違反 | 石綿障害予防規則 | 50万円以下の罰金 |
作業場の立入禁止・石綿使用の掲示義務違反 | 石綿障害予防規則 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
このように、アスベストの飛散防止措置を怠るなど、労働者や周辺住民の健康を脅かす悪質な行為に対しては、特に重い罰則が設定されています。事業の信頼性を失墜させないためにも、法令で定められた一連の義務を正確に理解し、遵守することが不可欠です。
7. もしアスベストが見つかったら?調査後の対応と除去工事

事前調査の結果、アスベスト含有建材の使用が判明した場合、法令に基づいた適切な対応が求められます。除去工事はもちろん、建材の状態によっては「封じ込め」や「囲い込み」といった措置を選択することもあります。いずれの工法を選択するにせよ、アスベストの飛散を防止し、作業員と周辺住民の安全を確保することが最優先です。ここでは、アスベストが見つかった後の具体的な対応の流れを解説します。
7.1 アスベストのレベルに応じた適切な措置
アスベスト含有建材は、発じん性(粉じんの飛散のしやすさ)の高さに応じて3つのレベルに分類されており、レベルごとに除去作業の方法や届出の要否が異なります。そのため、まずは除去対象の建材がどのレベルに該当するのかを正確に把握することが重要です。
レベル | 発じん性 | 主な建材例 | 措置の概要 |
レベル1 | 著しく高い | 吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール、石綿含有ひる石吹付材など | 作業場所を厳重に隔離し、負圧除じん装置を使用。作業員は最高レベルの防護具を着用。都道府県等への作業届出が必須。 |
レベル2 | 高い | 石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材(配管エルボ、ボイラー本体など) | レベル1に準じたばく露・飛散防止対策が必要。隔離や湿潤化を徹底する。都道府県等への作業届出が必須。 |
レベル3 | 比較的低い | スレート波板、石綿含有ビニル床タイル、窯業系サイディングなどの成形板 | 原則として届出は不要。ただし、破砕・切断しないよう手作業で丁寧に除去し、湿潤化させるなどの飛散防止措置は義務付けられている。 |
7.2 除去工事の届出と作業計画
アスベストの除去工事を行う際は、事前に詳細な作業計画を策定し、必要な届出を行うことが法律で義務付けられています。特にレベル1、レベル2の建材を除去する場合は、作業開始の14日前までに、工事の発注者または自主施工者が都道府県知事等へ「特定粉じん排出等作業実施届出書」を提出しなければなりません。
また、元請業者は労働基準監督署長に対し、工事計画届の提出が求められる場合があります。さらに、労働安全衛生法および石綿障害予防規則に基づき、以下の内容を含む作業計画を定め、労働者に周知する必要があります。
作業の方法と順序
アスベストの飛散防止・ばく露防止の方法
使用する保護具の種類と管理方法
労働者の健康管理に関する事項
緊急時の対応
これらの計画と届出を怠ると、罰則の対象となるため、専門業者と連携し、遺漏なく進めることが不可欠です。
7.3 作業時の飛散防止対策と作業員の保護
除去工事において最も重要なのは、アスベスト繊維を外部に飛散させないこと、そして作業員の健康被害を防ぐことです。そのために、法令で定められた厳格な作業基準を遵守しなければなりません。
7.3.1 主な飛散防止対策
隔離養生: 作業区域をプラスチックシートなどで完全に密閉し、外部と隔離します。
負圧管理: 高性能な集じん・排気装置(負圧除じん装置)を使用し、隔離空間内の気圧を外部より低く保ち、汚染された空気が漏れ出るのを防ぎます。
湿潤化: 除去対象の建材に専用の薬液を散布し、常に湿った状態に保つことで、粉じんの飛散を抑制します。
セキュリティゾーンの設置: 作業区域の出入口に更衣室やシャワー室を設け、作業員が汚染された保護衣や保護具を外部に持ち出さないよう徹底管理します。
7.3.2 作業員の保護
呼吸用保護具: 作業レベルに応じ、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)や取替え式防じんマスク(RS3/DS3)など、適切な保護具の着用が義務付けられています。
保護衣: 粉じんが付着しにくい素材でできた、使い捨ての保護衣、手袋、保護メガネなどを着用します。
特別教育と作業主任者: アスベスト除去作業に従事する労働者は、事前に「石綿取扱い作業従事者特別教育」を受ける必要があります。また、「石綿作業主任者技能講習」を修了した者の中から作業主任者を選任し、その者の直接指揮のもとで作業を行わなければなりません。
8. アスベスト調査や除去にかかる費用相場と補助金制度

アスベストの調査や除去には専門的な知識と技術が必要なため、相応の費用が発生します。しかし、所有者の負担を軽減するため、国や地方自治体による補助金制度も設けられています。ここでは、費用の目安と活用できる制度について解説します。
8.1 アスベスト調査費用の目安
アスベストの事前調査費用は、調査内容によって異なります。書面・現地調査でアスベスト含有の可能性が否定できない場合、分析調査が必要となり、追加で費用が発生します。費用は建物の規模や図面の有無、検体数によって変動するため、あくまで目安として参考にしてください。
調査の種類 | 費用相場(目安) | 備考 |
書面調査・現地調査 | 3万円 ~ 10万円程度 | 資格者が図面と現地を目視で確認します。建物の規模や構造により変動します。 |
分析調査(定性分析) | 3万円 ~ 5万円程度 / 1検体 | 建材にアスベストが含まれているか否かを判断します。 |
分析調査(定量分析) | 4万円 ~ 10万円程度 / 1検体 | 建材にアスベストが何重量パーセント(wt%)含まれているかを分析します。 |
8.2 除去工事の費用相場
アスベスト除去工事の費用は、発じん性の高さを示す「レベル」によって大きく異なります。レベル1が最も危険性が高く、厳重な飛散防止対策が必要となるため、費用も高額になります。以下の費用はm²あたりの単価であり、足場の設置や廃棄物処理費用などが別途必要になる場合があります。
アスベストレベル | 除去費用の目安(m²単価) | 主な建材例 |
レベル1(発じん性が著しく高い) | 2.0万円 ~ 8.5万円 / m² | 石綿含有吹付け材(吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウールなど) |
レベル2(発じん性が高い) | 1.0万円 ~ 6.0万円 / m² | 石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材など |
レベル3(発じん性が比較的低い) | 0.3万円 ~ 2.0万円 / m² | スレート、ビニル床タイル(Pタイル)、窯業系サイディングなどの成形板 |
8.3 活用できる国や地方自治体の補助金・助成金制度
アスベストの調査や除去工事には、国や地方自治体が費用の一部を補助する制度を設けています。所有者の経済的負担を軽減し、アスベスト対策を促進することが目的です。
代表的なものに、国の「住宅・建築物アスベスト改修事業」があり、これを基に各地方自治体が独自の補助金・助成金制度を運営しています。対象となるのは、主に民間建築物の所有者が行うアスベスト調査や除去等工事です。
補助金の対象となる工事内容、補助率、上限額、申請期間などは、各地方自治体によって大きく異なります。また、予算の上限に達し次第、受付を終了する場合も少なくありません。そのため、計画段階で必ず建物の所在地を管轄する市区町村の担当窓口(建築指導課など)に問い合わせ、最新の情報を確認することが非常に重要です。
9. まとめ
2022年4月からの法改正により、建物の解体・改修工事におけるアスベスト事前調査が義務化されました。これは、作業員や周辺住民の健康被害を未然に防ぐためです。調査義務は発注者と元請業者の双方にあり、有資格者による調査と、石綿事前調査結果報告システムでの電子報告が必須です。違反すれば重い罰則が科されるため、法令を正しく理解し、確実な対応が求められます。アスベストが見つかった場合は適切な除去を行い、費用の負担軽減には補助金の活用も検討しましょう。

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