知らないと罰則も!アスベスト調査の義務化、対象工事と報告義務のすべて
- seira murata
- 8月18日
- 読了時間: 19分

労働者の健康被害を防ぐため、2022年4月から解体・改修工事のアスベスト調査と報告が義務化され、違反には罰則が科されます。本記事では、義務化の対象となる工事の具体例から、調査・報告の具体的な手順、必要な資格、費用相場、罰則の内容までを網羅的に解説。この記事を読めば、事業者が法令遵守のために何をすべきかが明確になり、意図せぬ違反のリスクを回避できます。
1. アスベスト調査の義務化はなぜ始まったのか?法改正の背景と目的
アスベスト(石綿)調査の義務化は、過去に起きた深刻な健康被害を二度と繰り返さないために始まりました。アスベストは、かつてその優れた断熱性や耐久性から「奇跡の鉱物」と呼ばれ、多くの建材に使用されてきました。しかし、その粉じんを吸い込むことで、肺がんや中皮腫といった、潜伏期間が数十年にも及ぶ重篤な病気を引き起こすことが判明しています。この「静かな時限爆弾」による被害を防ぐため、国は法改正に踏み切りました。
特に、建物の解体・改修工事は、建材に含まれるアスベストが飛散する最も大きなリスク要因です。作業員だけでなく、近隣住民の健康をも脅かす危険性があるため、工事前にアスベストの有無を正確に把握することが不可欠となりました。これが、事前調査を義務化し、規制を強化した大きな理由です。
1.1 背景にある深刻なアスベスト健康被害
アスベスト調査義務化の背景には、無視できない健康被害の歴史があります。高度経済成長期に建てられた多くの建築物には、アスベスト含有建材が使用されていました。これらの建物が老朽化し、解体・改修の時期を迎える中で、適切な対策を講じなければ、アスベストが飛散し、新たな健康被害者を生み出す恐れがあります。
アスベストによる疾患は、発症までの潜伏期間が20年〜50年と非常に長いのが特徴です。そのため、過去にアスベストを吸い込んだ人が、現在になってから深刻な症状に苦しむケースが後を絶ちません。こうした過去の教訓から、将来の世代を守るため、アスベストのばく露(吸い込むこと)を未然に防ぐための徹底した管理が求められるようになったのです。
1.2 法改正の目的:労働者と周辺住民の安全確保
今回の法改正による義務化の最大の目的は、解体・改修工事における労働者と、工事現場周辺の住民の安全と健康を確保することです。この目的を達成するために、以下の2つの側面から規制が強化されました。
労働者のばく露防止:工事に直接従事する作業員が、知らずにアスベストを吸い込んでしまうことを防ぎます。事前調査によってアスベストの有無や種類を特定し、適切な防護措置や工法を選択することが可能になります。
周辺への飛散防止:工事現場からアスベストが飛散し、近隣の住民が健康被害を受けることを防ぎます。調査結果に基づいた厳格な飛散防止対策を講じることで、地域社会全体の安全を守ります。
つまり、事前調査は、安全な工事計画を立てるための第一歩であり、アスベスト被害を根絶するための重要なプロセスとして位置づけられています。
1.3 規制強化の歴史:段階的に進められた法改正
アスベストに関する規制は、今回突然始まったわけではありません。その危険性が明らかになるにつれて、国は段階的に規制を強化してきました。今回の調査義務化も、その一連の流れの中にあります。
以下は、アスベストに関する主要な法改正の歴史です。
アスベスト関連法規の主な改正経緯 | ||
年 | 主な改正内容 | 関連法規 |
1975年 | 特定化学物質等障害予防規則(特化則)の改正。アスベストの吹き付け作業が原則禁止に。 | 労働安全衛生法 |
1995年 | 特に飛散性の高いアスベスト製品(アモサイト、クロシドライト)の製造・使用等が禁止に。 | 労働安全衛生法 |
2006年 | アスベスト含有率が0.1重量%を超える製品の製造・使用等が原則全面禁止に。 | 労働安全衛生法 |
2021年 | 大気汚染防止法が改正。解体等工事における規制を強化(事前調査方法の法定化、罰則強化など)。 | 大気汚染防止法 |
2022年 | 石綿障害予防規則が改正。一定規模以上の工事について、事前調査結果の電子報告が義務化。 | 労働安全衛生法 |
このように、アスベスト対策は過去の知見と反省に基づき、より実効性の高いものへと継続的に見直されています。2022年からの調査・報告義務化は、これまでの規制をさらに徹底し、アスベストの飛散リスクを社会全体で管理していくための重要な一歩なのです。
2. 【2022年4月から】アスベスト調査と報告の義務化がスタート

アスベスト(石綿)による健康被害を防ぐため、法改正により2022年4月1日から、建築物等の解体・改修工事におけるアスベスト事前調査結果の報告が義務化されました。これは大気汚染防止法および石綿障害予防規則(石綿則)の改正に基づくもので、事業者にはより厳格な対応が求められます。
この章では、いつから何が義務化されたのか、その具体的な内容について詳しく解説します。
2.1 アスベスト調査の義務化はいつから?段階的な法改正の経緯
アスベストに関する規制強化は、一度にすべてが施行されたわけではなく、段階的に進められてきました。特に2020年に公布された改正大気汚染防止法・石綿則により、規制が大幅に強化されています。主な改正内容の施行スケジュールは以下の通りです。
施行年月日 | 主な改正内容 |
2021年4月1日 |
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2022年4月1日 |
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2023年10月1日 |
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このように、規制は年々厳しくなっています。特に2022年4月1日からは、調査を行うだけでなく、その結果を労働基準監督署および地方公共団体へ報告することが必須となりました。
2.2 事前調査結果の報告義務化とは?電子システムでの報告が原則に
2022年4月1日以降に着工する一定規模以上の工事では、元請業者または自主施工者が、工事開始前にアスベスト事前調査の結果を報告する義務があります。この報告は、原則として電子システム「石綿事前調査結果報告システム」を使用して行う必要があります。
報告が義務付けられる工事の規模は以下の通りです。
工事の種類 | 報告対象となる規模 |
建築物の解体工事 | 解体作業対象の床面積の合計が80㎡以上 |
建築物の改修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
この電子報告を行うためには、事前に「GビズID」のアカウント取得が必要です。GビズIDは、複数の行政サービスにログインできる認証システムで、取得には数週間かかる場合があるため、工事計画の早い段階で準備を進めることが重要です。アスベストの含有が「無し」であった場合でも、上記の規模に該当する工事であれば報告は必須ですので注意してください。
3. 義務化の対象となる工事とは?解体・改修工事の具体例

2022年4月から施行された改正大気汚染防止法と石綿障害予防規則により、アスベストの事前調査が義務化される工事の範囲が大幅に拡大されました。これまで対象外だった小規模な工事も含まれるため、事業者は正確な対象範囲を把握しておく必要があります。
3.1 原則すべての解体・改修工事がアスベスト調査の対象
法改正により、建築物の規模や構造、請負金額の大小にかかわらず、原則としてすべての解体・改修工事が事前調査の対象となりました。これには、一般の住宅リフォームから大規模なビルの解体まで、あらゆる工事が含まれます。
具体的には、以下のような工事が対象となります。
建築物の解体工事:戸建て住宅、アパート、マンション、ビル、工場、倉庫などの全部または一部を解体する工事
建築物の改修工事(リフォーム・リノベーション):
内装の改修:壁紙の張り替え、天井の撤去、床材(Pタイルなど)の剥離、間仕切り壁の撤去
外装の改修:外壁の塗装(下地調整で既存塗膜を剥がす場合)、サイディングの張り替え、屋根の葺き替え・防水工事
設備の改修:空調設備の撤去、ボイラーや配管の保温材・断熱材の撤去
工作物の解体・改修工事:プラント設備、ボイラー、煙突、貯蔵槽、焼却炉などの解体・改修工事
たとえ請負金額が100万円に満たない小規模な内装リフォームであっても、アスベスト含有の可能性がある建材に手を加える場合は、事前調査の義務が発生します。
3.2 アスベスト調査義務化の対象となる建材の種類
アスベスト(石綿)を含有する建材は、その発じん性(粉じんの飛散しやすさ)に応じて3つのレベルに分類されています。事前調査では、これらすべてのレベルの建材が調査対象となります。
レベル | 発じん性の高さ(特徴) | 主な建材の例 |
レベル1 | 著しく高い (吹付け材) | 石綿含有吹付け材(吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール、吹付けバーミキュライトなど) |
レベル2 | 高い (保温材、断熱材など) | 石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材(配管の保温材、ボイラー本体の断熱材など) |
レベル3 | 比較的低い (成形板など) | 石綿含有成形板(屋根用化粧スレート、外壁サイディングなど)、ビニル床タイル(Pタイル)、天井用吸音板、煙突用石綿セメント管など |
特にレベル1の吹付け材は飛散リスクが非常に高いため、厳重な管理が求められます。一方で、レベル3の建材は身近な住宅にも多く使用されているため、リフォームなどの際には注意が必要です。
3.3 調査が不要になる例外的なケースとは
原則すべての工事が対象ですが、以下のような極めて限定的なケースでは、事前調査が不要となる場合があります。
建材の除去等を伴わないごく軽微な作業
釘を打って固定する、または引き抜くといった、建材にほとんど損傷を与えない作業。ただし、電動ドライバーで下穴を開ける、電動サンダーで研磨するといった作業は対象外となり、調査が必要です。
石綿含有のおそれがないことが明らかな建材のみの工事
木材、金属、石、ガラスといった、素材そのものにアスベストが含まれていないことが明らかな材料のみで構成された部分の工事。ただし、金属にアスベスト含有の断熱材が使われていたり、木材にアスベスト含有の塗料が塗布されていたりする可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
2006年(平成18年)9月1日以降に着工した建築物・工作物
この日以降、アスベスト含有製品の製造・使用が原則禁止されたためです。ただし、設計図書や工事請負契約書など、着工日を客観的に証明できる書面がある場合に限られます。口頭での確認や、竣工日からの推測では認められません。
これらの例外に該当するかどうかの自己判断は非常に困難であり、誤った判断は法令違反につながるリスクがあります。不明な場合は、必ず専門の調査会社や有資格者に相談することが重要です。
4. アスベスト調査と報告義務の具体的な内容

2022年4月から義務化されたアスベストの事前調査と報告には、定められた手順と方法があります。ここでは、調査の進め方から報告、記録、現場での掲示義務まで、事業者が遵守すべき具体的な内容を一つずつ解説します。
4.1 事前調査の進め方 3つのステップ
アスベストの事前調査は、大きく分けて「書面調査」「目視調査」「分析調査」の3つのステップで進められます。これらの調査は、2023年10月1日以降、厚生労働大臣が定める講習を修了した者(建築物石綿含有建材調査者など)が行う必要があります。
4.1.1 ステップ1 書面調査
まず最初に行うのが、設計図書や仕様書、竣工図、過去の改修工事の記録といった書類を確認する書面調査です。これにより、建物の建築年や使用されている建材の種類を把握し、アスベスト含有建材が使用されている可能性を洗い出します。特に、アスベストが多用されていた2006年9月1日以前に着工された建築物については、入念な確認が求められます。
4.1.2 ステップ2 現地での目視調査
次に、書面調査で得た情報を基に、実際に工事対象となる建築物の現地調査を行います。書面だけでは確認できない建材の劣化状況や、図面に記載されていない増改築部分などを目視で確認します。調査対象の建材を損傷させないよう、慎重に調査を進めることが重要です。書面と現地状況を照合し、アスベスト含有の可能性がある建材を特定します。
4.1.3 ステップ3 分析調査(みなし含有も解説)
書面調査と目視調査を行ってもアスベスト含有の有無が明らかにならない場合は、対象の建材から試料(サンプル)を採取し、専門の分析機関による分析調査を実施します。分析により、アスベストの種類や含有率を正確に特定できます。
一方で、分析調査を行わずに、対象の建材を「アスベスト含有あり」とみなして、法令に則ったばく露防止対策を行う「みなし含有」という措置も認められています。分析にかかる費用や時間を削減できるメリットがありますが、実際には非含有でも高レベルの対策が必要となり、結果的に除去費用が高額になる可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
4.2 調査結果の報告方法 GビズIDと石綿事前調査結果報告システムについて
事前調査の結果は、工事の元請業者または自主施工者が、労働基準監督署と地方公共団体に報告する義務があります。報告は、原則として厚生労働省が管轄する電子システム「石綿事前調査結果報告システム」を通じて行います。
このシステムを利用するには、法人・個人事業主向けの共通認証システムである「GビズID」のアカウント(gBizIDプライムまたはgBizIDメンバー)が必要です。アカウントの取得には時間がかかる場合があるため、早めに準備を進めましょう。報告は工事開始前までに行う必要があり、アスベスト含有の有無にかかわらず、対象工事であれば必ず報告しなければなりません。
4.3 調査結果の記録と保存義務
事前調査に関する記録は、適切に作成し、保存する義務があります。記録には、調査年月日、調査方法、対象建材の種類、アスベスト含有の有無といった調査結果の概要を記載します。この記録は、解体・改修工事が終了した日から3年間保存しなければなりません。発注者への調査結果の説明にもこの記録の写しを用いるため、正確に作成することが重要です。保存形式は書面でも電子データでも構いません。
4.4 作業現場での掲示義務も忘れずに
アスベストの事前調査結果は、作業現場の公衆の見やすい場所に掲示することも義務付けられています。これにより、作業員や周辺住民にアスベストの有無を周知し、安全を確保します。掲示は工事の開始から終了まで継続して行う必要があります。
事前調査結果の掲示内容(様式例) | |
項目 | 記載内容 |
掲示サイズ | A3サイズ(297mm×420mm)以上 |
掲示事項 |
|
掲示を怠った場合も罰則の対象となる可能性があるため、忘れずに対応しましょう。
5. アスベストの事前調査は誰ができる?必要な資格について

アスベストの事前調査は、誰でも実施できるわけではありません。アスベストの見落としは健康被害に直結するため、専門的な知識と経験を持つ有資格者が行う必要があります。ここでは、法改正によって義務化された調査資格について詳しく解説します。
5.1 2023年10月からの資格者による調査の義務化
アスベスト調査の信頼性をさらに高めるため、2023年10月1日以降に着手する解体・改修工事からは、厚生労働大臣が定める講習を修了した専門の資格者による事前調査が義務化されました。この改正により、設計図書などを用いた書面調査を除き、現地での目視調査などは有資格者でなければ行うことができません。事業者は、調査を依頼する際に相手が適切な資格を保有しているかを確認する必要があります。
5.2 必要な資格の種類 建築物石綿含有建材調査者とは
アスベストの事前調査を行うために必要な資格の代表的なものが「建築物石綿含有建材調査者」です。この資格は、調査対象となる建築物の種類によって3つに区分されています。それぞれの資格者が調査できる範囲は以下の通りです。
資格の種類 | 調査できる建築物の範囲 |
特定建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物(解体・改修工事対象) |
一般建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物(解体・改修工事対象) |
一戸建て等石綿含有建材調査者 | 一戸建て住宅や共同住宅の住戸の内部など(延べ面積に関わらず) |
「特定」と「一般」は調査できる範囲に違いはありませんが、「特定」はより実務的な内容を含む講習を修了した資格となります。事業者は、工事の対象となる建築物の規模や種類に応じて、適切な資格を持つ調査者に調査を依頼しなければなりません。これらの資格は、指定された機関での講習を受講し、修了試験に合格することで取得できます。
6. アスベスト調査にかかる費用の相場は?

アスベストの事前調査にかかる費用は、建物の規模や構造、調査方法によって大きく変動します。ここでは、調査内容別の費用目安と、コストを抑えるためのポイントについて具体的に解説します。
6.1 調査内容別の費用目安
アスベスト調査の費用は、主に「書面・目視調査」と、必要に応じて行われる「分析調査」の2つに大別されます。それぞれの費用相場を見ていきましょう。
6.1.1 書面調査・目視調査の費用
設計図書などの資料を確認する書面調査と、資格者が現地で建材を直接確認する目視調査は、通常セットで行われます。費用は建物の延床面積によって算出されるのが一般的です。
一般的な戸建て住宅(延床面積100㎡程度)の場合、費用相場は5万円~10万円程度です。ただし、建物の構造が複雑であったり、図面が残っていなかったりする場合は、調査工数が増え費用が加算されることもあります。
6.1.2 分析調査の費用
書面調査や目視調査でアスベスト含有の疑いがある建材が見つかった場合、その建材の一部を検体として採取し、専門機関で分析調査を行います。費用は「検体数 × 分析単価」で決まります。
分析方法には、アスベストの有無を調べる「定性分析」と、含有率まで詳しく調べる「定量分析」があり、それぞれ費用が異なります。
分析の種類 | 費用相場(1検体あたり) | 備考 |
定性分析 | 3万円~5万円程度 | JIS A 1481-1、JIS A 1481-2などの方法でアスベストの含有の有無を調べる。 |
定量分析 | 4万円~10万円程度 | JIS A 1481-3などの方法でアスベストの含有率(重量パーセント濃度)を調べる。 |
複数の箇所で疑わしい建材が見つかると、その分検体数が増え、総額も高くなります。見積もりの際には、検体数の上限や追加料金が発生する条件について事前に確認しておくことが重要です。
6.2 費用を抑えるポイントと補助金・助成金の活用
法改正により必須となったアスベスト調査ですが、いくつかのポイントを押さえることで費用負担を軽減できる可能性があります。
6.2.1 費用を抑えるための3つのポイント
複数の調査会社から相見積もりを取る
費用は調査会社によって異なります。最低でも2~3社から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討することで、適正価格を把握しやすくなります。
設計図書などの資料を準備しておく
竣工図や仕様書、過去の修繕履歴などの資料があれば、書面調査がスムーズに進みます。調査時間の短縮が、結果的に費用削減につながる場合があります。
「みなし含有」の活用を検討する
分析調査を行わずに、対象の建材を「アスベスト含有あり」として扱うことを「みなし含有」といいます。これにより分析費用は削減できますが、アスベスト除去工事の費用が高額になる可能性があるため、解体・改修工事全体のコストを考慮して慎重に判断する必要があります。
6.2.2 補助金・助成金制度の活用
国や地方自治体では、アスベスト調査や除去工事に対する補助金・助成金制度を設けている場合があります。例えば、「民間建築物に対するアスベスト調査等補助制度」といった名称で、調査費用の一部を補助する制度です。
補助金の有無、対象となる建物の条件、補助率や上限額は自治体によって大きく異なります。また、予算には限りがあり、申請期間が定められていることがほとんどです。
調査を計画する際は、まず工事を行う建物の所在地を管轄する市区町村の役所(環境保全課や建築指導課など)に問い合わせ、利用できる制度がないか必ず確認しましょう。
7. アスベスト調査義務に違反した場合の罰則

アスベスト(石綿)による健康被害を未然に防ぐため、大気汚染防止法や労働安全衛生法(石綿障害予防規則)が改正され、解体・改修工事におけるアスベスト調査や報告が厳格に義務化されました。もしこれらの義務を怠った場合、事業者には厳しい罰則が科されることになります。「知らなかった」では済まされず、事業の信頼性にも関わる重大な問題となるため、罰則内容を正確に理解しておくことが不可欠です。
7.1 調査・報告義務違反の罰則内容
アスベスト関連の法令に違反した場合、直接的な罰則(懲役刑や罰金刑)が適用されます。特に、2022年4月から義務化された事前調査結果の報告を怠った場合も罰則の対象となるため注意が必要です。主な違反行為と罰則内容は以下の通りです。
主な違反行為と罰則 | ||
違反行為 | 根拠法令 | 罰則内容 |
事前調査を実施しなかった場合 | 大気汚染防止法 | 30万円以下の罰金 |
事前調査結果の報告を怠った、または虚偽の報告をした場合 | 労働安全衛生法 | 30万円以下の罰金 |
隔離等をせずに特定建築材料の除去等作業を行った場合 | 大気汚染防止法 | 3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
除去等に関する措置義務(作業基準)に違反した場合 | 労働安全衛生法 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
都道府県等による立入検査の拒否、妨害、または虚偽の報告をした場合 | 大気汚染防止法 | 30万円以下の罰金 |
これらの罰則は、元請業者だけでなく、下請負人や自主施工者など、違反行為を行った者が対象となります。工事に関わるすべての事業者が、法令遵守の意識を高く持つ必要があります。
7.2 罰則を受けないために事業者が遵守すべきこと
意図せず法令違反となってしまう事態を避けるためには、事業者は以下の点を徹底し、適切な管理体制を構築することが重要です。
法改正内容の正確な把握アスベスト調査・報告の義務化について、対象となる工事の規模や建材、報告手順などの最新情報を常に確認し、正しく理解することが基本です。
有資格者による事前調査の徹底2023年10月1日以降、建築物のアスベスト事前調査は、専門の資格者(建築物石綿含有建材調査者など)が行うことが義務付けられています。必ず有資格者に調査を依頼してください。
報告システム(GビズID)の準備と確実な報告原則として電子申請が求められる「石綿事前調査結果報告システム」を利用するために、あらかじめGビズIDを取得しておくなど、スムーズに報告できる体制を整えておきましょう。
調査結果の記録、保存、掲示の実行事前調査の記録は工事終了後も3年間の保存義務があります。また、調査結果の概要は、工事現場の見やすい場所に掲示する義務も忘れてはなりません。
社内での情報共有と教育工事の担当者だけでなく、営業担当者や経営層も含め、社内全体でアスベスト規制の重要性を共有し、法令遵守の意識を高めるための教育を行うことが望ましいです。
これらの対策を講じることで、罰則のリスクを回避するだけでなく、労働者や周辺住民の安全を守り、企業の社会的責任を果たすことにつながります。
8. まとめ
アスベスト調査の義務化は、作業員や周辺住民の健康被害を未然に防ぐための重要な法改正です。2022年4月から、原則すべての解体・改修工事で事前調査と電子報告が義務付けられ、2023年10月からは専門の資格者による調査が必須となりました。調査や報告を怠ると罰則の対象となるため、事業者は法令を正しく理解し、GビズIDを用いた石綿事前調査結果報告システムでの報告など、定められた手順を確実に遵守することが不可欠です。
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